2024年の調査ではOECD33か国の中で日本人は世界の中で最も睡眠時間が短い(7時間22分)事がわかっています。最も睡眠時間が長い南アフリカと比べると1時間50分近くも差がありました。厚労省による健康日本21(第3次)では、令和14年の目標値で睡眠が6~9時間取れている人の割合を60%にすることが提案されています(令和元年実績54%)。健康づくりのための睡眠ガイド2023によると、睡眠時間は年齢により推奨時間が異なり”高齢者では床上時間を8時間以上にならない事を目安に睡眠時間を確保する事”、”成人では6時間以上”、”小学生では9~12時間”、”中高生は8~10時間を参考に睡眠時間を確保する事”とされています。この様に国でも睡眠の確保を健康のために重要な事項ととらえているのです。
前回の記事では睡眠不足が身体に及ぼす影響について説明しました。今回は第2弾として良い睡眠を取るための工夫について、環境づくりと生活習慣の2つの面からまとめてみました。
環境づくり
①日中にできるだけ日光を浴びられる環境づくり
起床後に朝日の強い光を浴びることで体内時計はリセットされ睡眠・覚醒リズムが整い、脳の覚醒度は上昇します。その為、夜間に外が明かるい様な街中に住んでいる場合は、寝る際に遮光カーテンなどが有効ですが、逆に朝に朝日が入らないため朝に起きにくくなります。
また、日中はできるだけ光を多く浴びることが大切です。日中に光を浴びる事で夜間のメラトニン分泌量が増加し、体内時計が調節され、入眠が促進されます。仕事や学校で屋内にいる時間が長いと思われますが、昼休みなどは屋外に出るなど工夫が必要です。
②スマホやPC、タブレットなどはベッドに持ち込まない。できるだけ寝室は暗くする。
近年の照明器具やスマートフォンにはLEDが使用されており、体内時計への影響が強い短波長光(ブルーライト)が多く含まれているため、寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠に寄与します。
③寝室の温度
寝室の温度は16~20度程度がよいとされています。特に最近は春が過ぎるとすぐに暑くなり、脳内温度が下がらないため不眠の人が増えています。夏は寝室の室温上昇時に、睡眠時間が短縮し、睡眠効率が低下することが、実生活下の調査によって報告されています。逆に冬に実施した調査研究からは、就寝前に過ごす部屋の室温が低いと、入眠潜時が延長することが示されていることから、冬季は就寝前にできるだけ温かい部屋で過ごすことも重要だそうです。
④寝室の明るさ
寝ている間は、低い照度の光でも中途覚醒時間を増加させ、睡眠の効率を下げることが報告されており、寝室の照明にも配慮することは重要と考えられます。観察研究の系統的レビューで、夜間の光曝露が睡眠障害と関連していることが報告されているそうです。できれば豆電球もない方が良いそうですが夜間トイレに行く際に必要な人はアイマスクなどを利用するとよいでしょう。また、屋外が夜間でも明るい環境の場合は、遮光カーテンなどで寝室は暗くすることが必要です。
生活習慣
①毎日の生活リズムを整える
良い睡眠のためには、まず規則正しい生活を送ることを心がけましょう。規則正しい生活習慣は、主観的な睡眠の質を高めるだけでなく、日中の眠気を改善します。一方で、夜ふかし、不規則な就寝時刻、不規則な食事のタイミングなどの生活習慣の乱れは、睡眠不足を招くだけでなく、体内時計の遅れや乱れ、主観的な睡眠の質の低下を招きます。長期的には、うつ病などの精神疾患の発症リスクや、死亡リスクを高める可能性も報告されています。規則正しい生活習慣を維持し、日中は明るい環境でできるだけ活動的に過ごすとともに、夜間はやや暗い環境でゆったりとリラックスして過ごし、1日の睡眠・覚醒リズムにメリハリをつけましょう。
②しっかりと朝食を取り、寝る直前の食事を控える。
朝食を⽋食すると、体内時計の後退に伴う寝つきの悪化を介し、睡眠不足を生じやすくなります。また、就寝前の夜食や間食は、朝食の⽋食と同様に体内時計を後退させ、翌朝の睡眠休養感や主観的睡眠の質を低下させることが報告されています。
③カフェインの過剰摂取や夜間の飲酒は避けましょう。
夕方以降に100mgのカフェイン(コーヒー約170ml)を摂取すると入眠困難や徐波睡眠(熟睡)の減少、中途覚醒の増加が生じます。
飲酒はアルコールは一時的には寝つきを促進し、睡眠前半では深い睡眠を増加させます。しかし、睡眠後半の眠りの質は顕著に悪化し、飲酒量が増加するにつれて中途覚醒回数が増加することが報告されています。また、アルコールは閉塞性睡眠時無呼吸をはじめとした様々な睡眠障害を増悪させます。
④禁煙の推奨
たばこに含まれるニコチンは覚醒作用を有しており、睡眠前の喫煙は、入眠潜時の延長(寝つきの悪化)、中途覚醒の増加、睡眠効率の低下、深睡眠の減少をもたらします。また、ニコチンの血中半減期は約2時間であるため、夕方の喫煙であっても、眠る前までその作用は残存することがあります。習慣的にニコチンを摂取している人は、非喫煙者と比べて、入眠困難・中途覚醒・睡眠時間の減少、深睡眠の減少が高度であり、日中の眠気も強いことが報告されています。
⑤運動習慣をつける
適度な運動習慣等により、日中に身体をしっかり動かすことは、入眠の促進や中途覚醒の減少を通じて、睡眠時間を増やし、睡眠の質を高めます。
運動のタイプ:有酸素運動は、寝つきを良くし、深い睡眠や睡眠時間も増加させ、睡眠休養感も高めると報告されています。また筋力トレーニングも効果があると言われます。
強度:中等度までの運動(汗をかく程度)や家事動作などは主観的な睡眠の質、入眠潜時や睡眠時間、睡眠効率を改善します。逆に高強度の運動は逆に交感神経を高め睡眠の質を低下させます。
タイミング:日中の運動がおすすめ。運動で深部体温が上昇した後、全身の血液循環が高まり、放熱が促進され、深部体温が下がります。夕方以降の運動では、寝る時間より2~4時間ほど前に行うことが良いとされています。
運動は精神的な不安を取り除く効果もあり、睡眠の質向上につながります。
⑥3-4-5呼吸法の利用
以下の呼吸を腹式呼吸で行います。
- 3秒かけて鼻で息を吸う。
- 4秒息を止める。
- 5秒かけて口からゆっくり息を吐く。
この呼吸法をすることにより副交感神経が活発となり入眠しやすくなります。
※欧米人は肺活量が多いため4-7-8呼吸法が用いられていますが、日本人は肺活量が少ないため3-4-5呼吸法が適しているそうです。
まとめ
日本人は睡眠時間が少ないと言われています。近年は夏場に夜間の気温が高すぎたり、スマホの常用など環境面からも睡眠不足になりやすくなっています。睡眠障害は様々な身体的不調につながり生活の質を下げてしまします。良い睡眠を取る工夫をして生活の質を高めましょう。
心配事などが睡眠障害の原因になっていると思われる方は、学生の場合はカウンセラー、職場の場合は保健師などに相談し、心療内科を受診してみることも検討しましょう。
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